鹿児島しょうぶ学園視察

僕と同行した敏腕スタッフの報告を掲載します。

「Libido(リビドー)」とは、「人間に生得的に備わっている衝動の原動力となるすべて の本能のエネルギー、つまり行動の根底にある心的エネルギー」(カール・グスタフ・ ユング)のこと。

障害を持つアーティストの作品を展示する「Libido 展 鹿児島 ~本能としての衝動 ~」が、鹿児島にて約 1 カ月にわたり開催されている。展示ギャラリーは、全部で 6 つ。街中にある商業施設だったり、鹿児島港の畔に立つおしゃれなショップだったり。 鹿児島の街を回遊しながら、展示を見られる仕掛けになっている。その展覧会と、障害 者支援センター「しょうぶ学園」の見学を兼ねて、このたび鹿児島視察を行った。

初日は Libido 展。展示される作品は、国内でも先進的な芸術活動に取り組む 6 つの 社会福祉施設から集められている。「工房集(埼玉県)」、「studio COOCA(神奈川県)」、 「風の工房(長野県)」、「やまなみ工房(滋賀県)」、「工房まる(福岡県)」、「工房しょ うぶ(鹿児島県)」。今まで、障害者は「できないこと」にスポットを当てられがちだっ た。しかし、これらの施設では個人の得意なことや、一人ひとりの表現を大切にし、障 害者の可能性を「ものづくり」として発信している。ギャラリーに展示された作品は、 画一的な価値観を優に飛び越え、アートの概念を塗り替えるものばかり。観る者は、人 間本来の欲望や衝動に気づかされてしまう。毎日の生活を生きやすく生きるために手に 入れた「形式的な解釈」や「社会機能」によって抑え込まれていたエネルギーが呼び覚まされるのだ。障害を持つ作家たちに制作の意図や目的はない。競争心もない。欲もな い。ただ、内から突き動かされる衝動「Libido」のまま、行為そのものに喜びを感じ、 作り上げているのだから。

また、この日は展覧会初日ということで、オープニングライブ「踊るリビドー」も行 われた。第 1 部は知的障害のある人たちを中心に結成された劇団「くらっぷ」による演 劇。ステージにごろりと寝転んだり、叫び声を上げたり、聞き取れないほどの声量でつ ぶやくように話したり。どこまでが台詞なのか、どこまでが本人のアドリブなのか…。 実は台本はなく、稽古のなかでセリフや動きを構成しているのだとか。即興性と偶然性 に満ちたステージに、観客はソワソワ…、そして大笑い! ライブ感のあるユニークな 演劇に、終始、目も心も奪われてしまうのだ。

第 2 部は、しょうぶ学園の主宰する、音パフォーマンスグループ「otto&orabu」に よるステージ。「otto」は民族楽器を中心としたパーカッショングループ。「orabu(お らぶ=鹿児島弁で「叫ぶ」の意)」は叫びのコーラスグループ。ふたつの絶妙なコラボ レーションからあふれてくるのは、音楽への喜び。その喜びは、高い純度のまま観客へ と伝播する。「心地よい不揃いの音」は、個と個による本気のセッション。上手い下手 が基準ではない世界。即興的で本能的な響き合いに、音楽の原点を感じずにいられない。 最後は会場総立ち、大歓声に包まれた。(彼らは 8 月 26 日に「かわなべ森の学校」で 開催され、例年、九州各県、東京、大阪からも集客する野外音楽イベント「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE ‘12」への出演が決まっている。)

翌日は市街地からバスで約 30 分移動したところにある、「しょうぶ学園」へ。

緑が生い茂る園内へと足を踏み入れた途端に感じる、開かれた空気。ずっとそこにい たくなる居心地の良さ。蕎麦の店、パン工房、パスタ&カフェの店が並び、おいしい匂 いで充満している。ギャラリーやクラフトショップもあり、若いカップルや女性同士が、 食事や買い物などを楽しんでいる。

先にも触れたが、「しょうぶ学園」とは、障害者支援センターである。1973 年創立。 「ささえあうくらし ―自立支援事業―」「つくりだすくらし ―文化創造事業―」「つながりあうくらし ―地域交流事業―」の想像が、学園のコンセプト。現施設長の福森 伸氏は、両親から受け継いだ園の方針を見直しながら、運営を行ってきた。学園創設以 来、「ものづくり」を障害者支援事業の大きな柱としており、「布」「木」「土」「和紙」 「絵画・造形」「音楽」「食」「花・野菜」と多彩なプログラムを用意。現在は約 120 名 がここを利用し、生活面のケアを受けながら、各々の表現活動に取り組んでいる。

学園内にいる人は、皆がのびのびとしている印象。支援されるに側も、する側にも、 こぼれるような無垢な笑顔をたくさん見かけた。視察日は休日だったため、施設利用者 が工房でものづくりをしている姿は目にできなかったが、人のいない工房にさえ沈黙の 活気を感じるほど、自由な空気で満ちていた。

周囲の自然と一体化したかのような建物、園内で作られた温かみのある木工家具、効 率ではなく個人を尊重した施設や工房の造り、障害のあるなしに関わらず生み出される 多様なコミュニケーション…。「主体性」と「共存」とが奇跡的なバランスで存在する 「しょうぶ学園」。今年のスローガンは、「熟慮断行」とか。「芝生の下を掘って、地下 に劇場を作りたいんです」と少年のように話す施設長の福森氏。スローガンのもと、そ の計画が実行される日も近いかもしれない。理想郷のようなその場所に、ますます人が集い、ポジティブな人の輪が広がっていくことだろう。

 

これからの福祉について、思いのあるメンバーでの”しょうぶ学園”視察。来月9月17日に廃校跡地で行われる『真夏の夜の夢〜マチノブンカサイ〜』において校舎内で“さをり織り”のワークショップを企画しているメンバーである。

岡山で実現出来る日を夢見て。